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規格の未来 – イノベーションのためのパートナーシップ

前回と前々回の投稿で述べた内容を振り返ると、規格はSDGsの信頼の基盤であり、目標を具体的な行動に変える共通の言語である、ということです。

規格の未来 – イノベーションのためのパートナーシップ

前回と前々回の投稿で述べた要点を改めて整理します。規格は SDGs を支える信頼の基盤であり、志を実行へとつなぐ共通言語です。そして協働とは、その言語に現実の世界で意味を与える対話の場です。本稿では、この対話に関わる主体の合意を、現代に求められるスピードで日常の実務能力へと落とし込むこと、そして標準化の取り組みが経済・環境・社会の面で本来の成果を十分に生み出すために、私たち全員(規格団体、産業界、政府、規制当局、ソリューションパートナー)に求められる実践的な取り組みについてお話していきます。

課題

合意も、日々の意思決定にまで落とし込まれて初めて意味を持ちます。現在、産業界が直面している状況は非常に複雑です。市場での主導権を巡る競争の激化や技術の進展により、製品サイクルは短くなっています。規制の枠組みも急速に変化し、規格がより体系的に参照されるようになっています。さらに、サプライチェーンは複数の法域にまたがって広がり、それぞれの地域が独自の要件を定める傾向も強まっています。その結果、どれほどよく整備された規格であっても、委員会での議論から現場の製造ラインや経営判断の場に至るまでの過程に、適用範囲の不確実性や逸脱の可能性、規範参照を把握しにくいといった障害があれば、実務で活用するのは難しくなります。

技術がこの状況を打開することへの期待は高まっています。現在、標準化の分野では AI やスマート技術への関心が強く、これらを活用して規格コンテンツの価値を高めようとする動きも進んでいます。しかし、その議論の中で現場の実情が見えにくくなってはなりません。多くの地域では、規格利用者が必要とする基本的な最新規格に十分アクセスできず、利用者向けのガイダンスや支援も整っていないのが実情です。適切なインフラや効率的な地域ディストリビューターが不足している場合もあり、その結果、古い版や正規でない版が使われてしまうこともあります。また、環境が比較的整っている地域であっても課題は残っています。Accuris の「規格リーダーシップ基礎」研修プログラムで規格利用者や専門家、エンジニアと議論した際にも、どの規格が製品やプロセスに適用されるのか、どの法域でどの順序で適用されるのか、改訂によって何が変わったのか、そしてそれが設計管理にどのような影響を与えるのかを把握することは依然として難しいという声が多く聞かれました。これらはいずれも事業の成功に直結する重要な要素です。

こうした疑問が解消されたとしても、現在の著作権方針やライセンス、アクセスモデルは、規格を日常業務で活用するうえで依然として大きな障壁となっています。一方で、必ずしも高度な技術が必要なわけではありません。例えば、主要な規格の信頼できる最新版の条項を、製品ライフサイクル管理(PLM)や変更管理のフォームに組み込むだけでも、文書に起因する不適合を大幅に減らし、貴重な時間の節約につながります。さらに、規範参照と連動した AI 支援の「変更点」アラートがあれば、設計レビューの段階で下流への影響を把握しやすくなり、後工程での高コストな手戻りを防ぐことにも役立ちます。いずれにしても、産業界のイノベーションを支えるためには、規格策定のあり方そのものにもイノベーションが求められています。

標準化団体における推進力としての統合

ユーザーのニーズは多様であり、その内容は企業規模(大企業か中小企業か)、事業内容、所在地など、さまざまな要因によって異なります。こうした多様性に加え、利用可能な技術の幅広さや技術進化の速さを踏まえると、すべてに当てはまる単一の解決策を求めるのはリスクが高いと言えます。特定の概念や技術に過度に焦点を当てると、それ自体が目的化してしまい、本来は課題解決の手段にすぎないはずの技術が「目的」になりかねません。その結果、問題があるから解決策を探すのではなく、「解決策が先にあり、後から問題を探す」という状況に陥る可能性もあります。 資源が限られ、ビジネスモデルが圧力を受け、収益源の多様化が課題となっている現在、規格団体に求められるキーワードは「統合」です。

まず重要なのは、コンテンツの統合です。規格やその内容は、できるだけエンジニア、品質管理担当者、調達担当者が日々の業務で使っているワークフローやツールの中で参照できる形にしておく必要があります。条項や定義、試験方法などを設計管理、変更管理、サプライヤー認定といったプロセスに組み込んでおけば、規格の内容を特別なものとして扱うのではなく、日常の業務の中で自然に活用できます。その結果、要件の確認から実際の対応までをよりスムーズに進めることができます。

次に重要なのは、複数の技術ソリューションの連携です。単一の技術ですべての業界、役割、地域のニーズに対応することはできません。そのため、検索、文書作成、製造、製品ライフサイクル管理、品質管理、調達といった各システムが相互に連携し、規格の解釈や参照、更新情報をスムーズに共有できる環境を整えることが重要です。

第三に、パートナーとの連携です。新しい技術や手法を取り入れた革新的なソリューションは、必要な資源や専門知識を持つ第三者のパートナーと戦略的に協力することで、より迅速に実現できます。標準化団体(SDO)や国家標準機関(NSB)、信頼できるベンダーとの共同開発は、デジタル化の推進を加速させ、デジタルサービスの拡充や情報の見つけやすさの向上、さらには規格の信頼性の維持にもつながります。また、パートナーシップ契約によって役割を明確にすることで、各組織の使命やガバナンスを損なうことなく価値を広げていくことができます。特に多くの標準化団体は、さまざまな分野での革新に取り組む必要がある一方で、政治的課題への対応も求められており、新たな投資に充てられる資源が限られているため、こうした連携は一層重要になります。

第四に、規格の利用者との連携です。日常業務で規格を使っている人たちを、イノベーションの過程により積極的に関与させる必要があります。多くの標準化団体は利用者中心の組織を目指していますが、会員主体・非営利という性格を持つため、会員への対応と実際の利用者への対応にどの程度の労力を割くべきかという課題が残っています。しかし、規格を現場で実際に使えるものにするには、早期の試行導入、実務者からのフィードバックの仕組み、そして教育・トレーニングを整えることが欠かせません。また、組織内では影響力のある会員だけでなく、実務で規格を使いこなす利用者も推進役として位置付けることで、優れた実践が迅速に広がり、協力体制の定着にもつながります。

Accurisは信頼できる価値あるパートナーです

役割やプロセス、知的財産権、ビジネスモデルなどに対するさまざまな圧力に直面しているものの、標準化団体はこれらを脅威としてではなく、自らの立場を強化する機会として捉え、あらゆる可能性を柔軟に検討していくことが重要です。Accurisは、信頼できる規格コンテンツの配信・集約を担う存在であると同時に、SDOやNSBのデジタル変革を支える技術パートナーでもあります。必要な技術力と資源を備え、標準化団体の取り組みを支援しています。また、標準化団体と規格利用者をつなぐ役割を担うことで、利用者のプロフィールや規格の使われ方、さらにはニーズや期待を把握するうえでも重要なパートナーとなっています。

前回の記事でも述べたように、不確実性の高い時代においては連携がこれまで以上に重要になります。私たちが直面する共通の課題に対応し、SDGsの達成を支えていくうえでも、規格の役割は大きくなっています。SDO、NSB、そしてAccurisは同じ立場にあり、規格利用者により大きな価値を提供すると同時に、新たな収益機会を生み出す可能性を共に探ることができます。たとえば、ライセンスや配信に関する適切なパートナーシップを通じて、規格の提供範囲を広げていくことも考えられます。こうした取り組みによってエコシステム全体のつながりが強まり、規格の策定から活用までの流れがより円滑になります。その結果、規格利用者のニーズに応えながら、自主的な標準化活動の持続性や社会的な意義、影響力を高めていくことにもつながります。

世界標準デーに寄せて

世界標準デーは、私たちの日常をより良いものにするために尽力している人々や機関を称える機会です。同時に、標準化に関わるコミュニティが次の取り組みに向けて改めて決意を新たにする節目でもあります。官民連携への継続的な投資の重要性を再認識し、新しい地域や技術分野からの声を取り込み、合意によって生まれた規格を、人にも機械にも見つけやすく、読み取りやすく、そして実際に活用しやすい形で提供していくことが求められています。こうした取り組みによって、規格はSDGsを後押しする存在であり続けます。SNS上の議論で目立つからではなく、複雑なシステムをより安全に、よりクリーンに、より信頼できるものにするという、実際の現場での役割によってその価値が示されます。

この連載をここまで読んでくださった方へのメッセージは、シンプルです。規格が共通の言語であり、協業がその対話だとすれば、それを実際に機能させるのは現場の力です。 規格をもっと見つけやすくできないか。情報の出どころをより分かりやすくできないか。要求事項を、チームが日常的に使っているツールへそのまま流し込めないか。情報の信頼性や更新の速さは当然の前提とし、そのうえでエコシステム全体の成功を支えるパートナーと協業していくことが重要です。 Accurisは、標準化団体や各国のメンバー、そして現場の実務者と並び、より良い世界という共通のビジョンを現実の形にしていくことを目指しています。

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